近地強震動記録による北海道十勝沖地震(2003/09/26, 4:50)の震源インバージョン(暫定)

*本多亮、*青井真、*森川信之、**関口春子、*功刀卓、*藤原広行
(*防災科学技術研究所、**産業技術総合研究所)

◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
2003年9月26日に北海道の十勝沖で発生した地震(2003/09/26,04:50, 41.7797N, 144.0785E, 42km; JMA)について、近地強震記録を用いて震源インバージョン解析を行った。図1に気象庁一元化震源の余震の分布を示す。今回の地震は余震域が約150km四方におよぶプレート境界型の地震であった。
 直近の観測点が震央から約80kmも離れた地震であること、また直達P波・S波の立ち上がりが不明瞭な観測点が多いことから、震源決定の精度は必ずしも良くない。本解析で用いる断層面を設定するに当たり、
 (1)震央は気象庁一元化震源による41.7797N, 144.0785E(深さに比べ震央は精度が高いため)
 (2)深さおよびメカニズムはF-net記録によるモーメントテンソル逆解析(図2)から得られた最適解(走向246°, 深さ29km, 松林氏私信)(プレート境界の深さとも整合しているため)
 (3)断層の大きさおよび傾斜角は気象庁一元化震源の余震群の広がりと傾きを参考に設定した140km x 160km及び20°
をそれぞれ用いた。
 線形波形インバージョン法(Hartzell and Heaton、1983)で解くため、断層面上のすべり破壊過程を時間・空間的に離散化した。空間的には10km四方の小断層に分け、時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅5秒のスムーズドランプ関数を2.5秒間隔で6つ並べることによって、すべり時間関数を表現した。各小断層からの理論地震波形は、Iwasaki et al. (1991)による一次元速度構造モデルを仮定し、離散化波数法(Bouchon、1981)と反射透過係数法(Kennette and Kerry, 1983)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加(Sekiguchi et al.、2002)することにより求めた。
◎解析に用いた波形データ
 防災科研K-NET(図3)13点での加速度強震波形に、0.02から0.2Hzのバンドパスフィルターをかけ、積分することにより得られた速度波形からS波部分85秒間を切り出し(S波到達時刻の5秒前から80秒後まで)、データとした。道東の根釧平野は厚さ数キロにおよぶ堆積平野であり、この付近の観測点では継続時間の長い長周期の波が観測され、ローカルな地盤効果が無視できない。解析にはその影響が小さい観測点の記録を使用した。
◎波形インバージョン
 各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は、観測記録と理論波形の差を最小とするよう最小二乗法により解いた。インバージョンには、すべり方向をモーメントテンソル解のメカニズムのすべり方向から+-45°の幅の中に納める拘束条件と、時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件をかけている(Lawson and Hanson, 1974)。平滑化の強さは、ABICが最小となる値を選んだ。第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は、観測と合成の波形の残差が小さくなるものを選んだ。
◎結果
 図4に推定されたすべり分布を、図5に観測波形と合成波形の比較を示す。解析により得られたモーメントはMo=3.2x10**21 Nm (Mw = 8.3)であり、(A)破壊開始点付近と(B)破壊開始点北西部の2ヶ所に大きなすべりが見られる。断層の主要な部分の最大のすべり量は、(B)の7.1mであった。低角逆断層型の余震分布を重ねると、本震ですべりの大きかった部分と相補的である(図4)。最適モデルを与える断層破壊モデルの「第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度」は3.4km/sであった。図6に断層破壊の時間的な発展の様子を示す。
◎考察
 観測点の組み合わせを変えて解析を行った場合でも、(B)の大きなすべりの分布はほとんど変化しないことから襟裳岬の東側で大きくすべったことは確実であると考えられる。
また(A)の破壊開始点付近で大きくすべっているにも関わらず、多くの観測点で初動の立ち上がりが不明瞭であるという事実は、すべり速度が比較的遅い(図6)ことに対応していると考えられる。一方で南西端に見られる大きなすべりは観測点の組み合わせに大きく影響されることが、観測点のセットを変えて行った波形インバージョンにより分かっている。海溝型地震であるため観測点分布が陸地である北側に偏っており、震央より南の小断層のすべりは十分には拘束されていない可能性があり。この点については今後の検討課題である。