● 近地強震記録による平成21年(2009年)8月11日駿河湾の地震の震源インバージョン

(2009/08/21)
◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
2009年8月11日5時7分に発生した駿河湾の地震(北緯34度47.1分, 東経138度29.9分, 深さ23km, マグニチュード6.5; 気象庁)について、K-NET、 KiK-netの断層近傍の強震動波形記録を用いて、震源過程のインバージョンを行った。
図1にHi-netのP波の押し引き分布によるメカニズム解およびF-netのモーメントテンソル逆解析から推定された震源メカニズムを示した。Hi-netとF-netのメカニズムには違いが見られる。DD法を用いて推定された詳細な震源分布は、余震域の南部と北部でそれぞれ南傾斜、東北東傾斜と異なる面状分布を示しており、本震の震源は南部の南傾斜の面上に位置している。これらのことよりインバージョンには、南部における南傾斜のセグメントIと北部における北東傾斜のセグメントIIという2つのセグメントからなる断層面モデルを用い、破壊はセグメントI上に位置するHi-netによる本震震源位置(北緯34.805度、東経138.502度、深さ21.6km)から開始するとした(図1)。セグメントIはHi-netの震源メカニズムのうち南傾斜の節面(走向63度、傾斜59度)に対応して大きさは16km×16km、セグメントIIはF-netの震源メカニズムの北東傾斜の節面(走向307度、傾斜47度)に対応して大きさは12km×16kmと仮定した。
インバージョン解析において断層面上のすべり破壊過程は、時間・空間的に離散化して表現されている。空間的には2km四方の小断層によりセグメントIを64個(8×8)セグメントIIを48個(6×8)に分けた。時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅0.8秒のスムーズドランプ関数を0.4秒間隔で7つ並べることによって表現した。各小断層からの理論地震波形は、各観測点ごとに異なる地下構造を考慮した1次元成層構造モデルを仮定して、離散化波数法(Bouchon, 1981)と反射透過係数法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加した(Sekiguchi et al., 2002)。
◎解析に用いた波形データ
防災科研K-NETおよびKiK-netの14観測点(図1)で得られた加速度強震波形に、0.1から1.0Hzのバンドパスフィルターをかけ、積分することにより得られた速度波形のS波到達1秒前から13秒間の記録を用いた。KiK-netについては地中記録を用いた。
◎波形インバージョン
各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は,観測記録と理論波形の差の最小二乗法により解いた。インバージョンには,すべりの方向をセグメントIは12度(Hi-netのすべり角)、セグメントIIは119度(F-netのすべり角)の片側70度の幅の中に納める拘束条件(NonNegative Least Square: Lawson and Hanson、1974)と,時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)をかけている。平滑化の強さはABIC(Akaike, 1980)を基準に決定し,第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は残差を最小とするものを選んだ。
◎結果
図2に推定されたすべり分布を、図3に観測波形と合成波形の比較を示す。断層面全体での地震モーメントは4.60 x 1018 Nm (Mw = 6.4)である。破壊は主として破壊開始点から西方に伝播し、破壊開始点の西約6kmのセグメントI上の領域で最大すべり量0.83mが推定された。第1タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は3.2km/sである。

注:なお、本解析は暫定的なものであり、今後修正される可能性がある。

(文責:鈴木亘・青井真(防災科研))

インバージョン解析により得られたすべり分布の地表投影。丸はインバージョンに用いた強震観測点、星印は破壊開始点、断層面上の黒丸は2つのセグメントの接合点を示す。