強震波形記録を用いた令和6年(2024年)能登半島地震(1月1日16時10分、M7.6)の震源インバージョン解析

はじめに

2024年1月1日16時10分に発生した令和6年(2024年)能登半島地震(M 7.6)について、強震波形記録を用いた震源インバージョン解析を行った。

データ

図1に示す防災科学技術研究所のK-NET観測点15点、KiK-net地中観測点10点、KiK-net地表観測点1点の計26観測点での強震加速度波形記録を積分して得た速度波形およびF-net観測点4点での強震速度波形を用いた。 これらの速度波形に0.025~0.25Hzのバンドパスフィルタをかけ、5Hzにリサンプリングした上で、S波の到達5秒前から100秒間を切り出し解析データとした。 なお本解析では本震の発震時刻より約13秒前の地震(発震時刻:2024年1月1日16時10分9.616秒、Hi-net震源情報)も含めて一連のイベントと見なしたインバージョン解析を行った。

断層面の設定

余震の空間分布やメカニズム解、地殻変動記録を参考に、三つの矩形断層面で構成される断層面モデルを仮定した。 北東の断層面①を走向55度、傾斜50度、走向方向の長さ54km、傾斜方向の幅24km、中央で破壊開始点を含む断層面②を走向60度、傾斜50度、走向方向の長さ42km、傾斜方向の幅24km、南西の断層面③を走向30度、傾斜50度、走向方向の長さ30km、傾斜方向の幅24kmとした。 破壊開始点は、Hi-net震源情報に基づき、北緯37.5091度、東経137.2373度、深さ12.09 kmにおいた。

断層破壊過程のモデル化

本解析ではマルチタイムウィンドウ線型波形インバージョン法(Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)に基づき、断層破壊過程を時空間的に離散化した。 空間的には、断層面を長さ6km、幅6kmの小断層で、走向方向21個、傾斜方向4個に分割した。 時間的には、各小断層でのすべり時間関数を、破壊開始点から一定速度Vftwで広がる同心円が到達した時刻から、2.8秒幅のスムーズドランプ関数を1.4秒ずらして20個並べることにより表現した。 これにより、各小断層からの要素波形(グリーン関数)を通じて、断層破壊過程と各観測点での波形は線型の方程式で結び付けられる。

グリーン関数の計算

各小断層からの要素波形は、一次元地下構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon, 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算した。 小断層内部の破壊伝播の効果に関しては、小断層内に25個の点震源(走向方向、傾斜方向それぞれ5列)を分布させることにより付加した。 地下構造モデルは、藤原・他(2009)による三次元地下構造モデルの各観測点直下の情報を用いて観測点ごとに構築した。 KiK-net観測点については速度検層の情報も利用した。

波形インバージョン解析

各小断層の各タイムウィンドウでのすべり量を、観測波形と合成波形の差を最小とするように、最小二乗法を用いて求めた。 不等式拘束条件をつけた最小二乗法(Lawson and Hanson, 1974)を用いて、各小断層でのすべり方向の変化を90度±45度に収めた。 断層近傍の計10観測点(ISKH01・ISK001・ISKH03・WJM・ISKH02・ISK003・ISK015・ISKH04・ISKH06・ISK007)はインバージョン解析における重みを2倍とした。 また時空間的に近接するすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)を付加した。 Vftwについては、断層面①では2.4km/s、断層面②および③では2.8 km/sとした。

結果

図2に推定された最終すべり分布を示す。 図3に最終すべり分布の地表投影を示す。 図4に断層破壊の時間進展過程を示す。 図5a図5bに観測波形と理論波形の比較を示す。 最大すべり量は5.3 m、断層面全体での地震モーメントは3.6×1020 Nm(Mw 7.6)である。 大きなすべりが、破壊開始点の北東側にあたる断層面①の浅部領域と、破壊開始点の南西側にあたる断層面②と③の浅部領域において見られる。 破壊開始からしばらくは顕著な破壊は見られず、破壊開始15秒後に断層面②の浅部領域にて破壊が生じたのち、破壊開始30秒後からは断層面①および断層面③の浅部領域において破壊が起きていたことが分かる。

(文責:久保久彦、鈴木亘、青井真(防災科学技術研究所)、関口春子(京都大学防災研究所))

2024年2月29日改訂

以前の震源モデル(2024年1月12日公開)はこちらです。

fig1

図1:観測点分布および断層面の地表投影及び震源メカニズム解。 星印は震央を示す。 一点鎖線は図3の範囲を示す。

fig2

図2:断層面上の最終すべり分布。 ベクトルは上盤のすべり方向とすべり量を示している。 星印は破壊開始点を示す。

fig3

図3:すべり分布の地表投影。 星印は破壊開始点を、青丸は本震発生から1日間の余震の震央分布(M2以上、Hi-net震源情報)を示す。

fig4

図4:破壊の時間進展過程。 7.5秒ごとのすべり分布を地表投影している。

fig5a fig5b

図5a図5b:観測波形(黒線)と合成波形(赤線)の比較。 波形の右上にそれぞれの最大値を示す。 なお、*のつく観測点は重みを2倍としてインバージョン解析を行っている。