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● 近地地震動記録による新潟県中越地震の震源インバージョン

*本多亮、*青井真、**関口春子、*森川信之、*功刀卓、*藤原広行
(*防災科学技術研究所、**産業技術総合研究所)
◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
 2004/10/23、17:56に起きた新潟県中越地震(37.289,138.87,13.1km; 気象庁)では、防災科研K-NETの小千谷観測点(NIG019)で、1500gal, 136cm/sという大振幅が記録された。我々は、K-NET, KiK-netの断層近傍の強震動波形記録記録を用いて、震源過程のインバージョンを行った。
図1に、気象庁1元化処理による本震後24時間の余震分布とF-netのモーメントテンソル逆解析から推定された震源メカニズム(走向211°、傾斜52°、滑り角93°)及びHi-netのP波の押し引き分布による解(走向208E、傾斜49、滑り角98)を示した。得られている余震分布の走向は北北東-南南西で、F-netのモーメントテンソル解の走向と調和的である。インバージョンに使用する断層面は、メカニズムはF-netのモーメントテンソル解を、破壊開始点は気象庁1元化震源の震央位置(37.289,138.87)の深さ13.4kmとした。国土地理院(2004)のGPSによる地殻変動の解析結果を考慮に入れ、西北西落ちの面を採用した。断層面の広がりは本震の震央から両側にそれぞれ20km余り広がっていることを参考に長さ42kmとし、幅は、地震前の地震活動や余震分布を参考に24kmとした。
 断層面上のすべり破壊過程は、時間・空間的に離散化して表現されている。空間的には2km四方の小断層252個に分けた。時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅0.7秒のスムーズドランプ関数を0.35秒間隔で9つ並べることによって表現した。各小断層からの理論地震波形は、余震の波形を用いてチューニングした3種類の1次元成層構造モデルを仮定して、離散化波数法(Bouchon、1981)と反射透過係数法(Kennette and Kerry、1979)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加した(Sekiguchi et al.、2002)。
◎速度構造モデル
震源域周辺の地下構造は、新発田-小出構造線を境にして大きく二つの領域に分けられる。構造線の北西側は、ほぼ我々の断層モデルの上盤側に対応しており、新潟平野などの堆積盆地が広がり新第三紀から第四紀の堆積層が広範囲に分布している。一方、下盤側となる南東の越後山地では、新第三紀の海成層はほとんど分布していない。浅い部分についてはこれらの地質情報(例えば、Yahagisawa et al.,1986)やボアホールの検層結果(METI, 2001)を参考にし、深い部分は地殻と上部マントルの構造を求めた鵜川、他 (1984)の速度構造モデルを用いて解析に使用する速度構造モデルを構築する。
 上盤側は、検層データを基に深さ2-2.5kmに速度不連続がある厚さ6kmの堆積層をおき、それより深い部分は鵜川,他(1984)の構造とした。下盤側は、大局的には硬い岩盤が露頭しているため、500メートルより深い部分を鵜川,他(1984)の速度構造モデルとし、上部に堆積層を置いた。この2つに加えて、小千谷のK-NET観測点NIG019のための速度構造モデルを構築した。Yamanaka et al. (2005)による小千谷での微動観測の結果得られた速度構造モデルを参考に、より深く速度の遅い堆積層を仮定した。NIG019は余震でも上盤側の他の観測点に比べて大きな振幅の波形が観測されており、我々の速度構造モデルの妥当性を強く示唆する。
 構築した3つの速度構造モデルを初期モデルとして、いくつかの余震の波形と理論波形とを比較しながら、それぞれの領域で波形のフィットが良くなるように速度構造モデルを修整した。図2にグリーン関数の計算に用いた3つの速度構造モデルを示す。
◎解析に用いた波形データ
防災科研K-NET(地上)およびKiK-net(地中)の9点(図1)で得られた加速度強震波形に、0.1から0.67Hzのバンドパスフィルターをかけ、積分することにより得られた速度波形のS波部分10秒間を切り出し(S波到達時刻の1秒前から9秒後まで)、データとした。
◎波形インバージョン
 各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は、観測記録と理論波形の差の最小二乗法により解いた。インバージョンには、すべり方向モーメントテンソル解のメカニズムのすべり方向93°から片側45°の幅の中に納める拘束条件(NonNegative Least Square: Lawson and Hanson、1974)と、時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件をかけている。平滑化の強さは、ABICにより妥当な値を選んだ。第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は、観測と合成の波形の残差が小さくなるものを選んだ。
◎結果
図3に推定されたすべり分布とMoment rate functionsを、図4に観測波形と合成波形の比較を、図5に断層破壊過程をそれぞれ示す。解析の結果、(a)破壊開始点付近、(b)破壊開始点の東側の浅い部分、(c)破壊開始点の南西側の3つのアスペリティが推定された。最大滑りは(a)破壊開始点付近で、3.8mであった。地震モーメントMoは1.2 x 10**19 Nm  (Mw = 6.7)である。
 アスペリティ(a)及び(c)ではライズタイムの短いMoment rate functionが得られ、これらは主に上盤側に位置する観測点の波形に寄与している。NIG019の大振幅は、主にアスペリティ(a)の最大滑りによって励起される。また震源域南東のNIG021、NIG022、NIGH01に見られるパルスはアスペリティ(c)によるものである。図4にアスペリティ(c)からの寄与の大きい部分を棒線で示す。アスペリティ(b)は滑りの継続時間が長く、主に下盤側の観測点の比較的長周期が卓越した波形に寄与する。
 破壊は、アスペリティ(a)から始まり、(c)、(b)の順に進展している。F-netモーメントテンソル解による震源深さは5kmであり、Hi-netの走時による震源深さに比べ浅い。このことは、破壊が主に浅い方向に進展したことと整合する。最適モデルを与える断層破壊モデルの「第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度」は2.2km/sであった。これは、震源付近のS波速度の約7割弱である。