近地強震動記録による宮城県北部(2003/07/26, 7:13)の地震の震源インバージョン(暫定)

*青井真、**関口春子、*功刀卓、*本多亮、*藤原広行
(*防災科学技術研究所、**産業技術総合研究所)

◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
 2003年7月26日に宮城県北部で起きた一連の地震のうち、最も大きな7:13の地震(38.389, 141.191, 12.9km, M6.3; Hi-net)について、震源インバージョン解析を行った。図1に示した震源分布(Hi-net)から分かるように、5月26日に深さ約70kmで起きたスラブ内地震(こちら)とは異なり、今回の地震は地殻内地震である。
 本震は、直近の定常観測点から震央距離で約20km程度離れた場所で起こった浅い地震であることを考えると、震央の位置はほぼ信頼できるが、震源の深さの決定精度は必ずしもよいとはいえない。ここでは、東北大学により余震域直上に展開された臨時余震観測網の記録を用いて決定された余震分布を参考に、破壊開始点をHi-netで決められた深さより浅く設定する。すなわち、震央の位置はHi-netにより求められた38.389, 141.191を用い、臨時余震観測により求められた余震の分布と整合するように深さを変え、6.5kmとした。strike角およびdip角はF-netのモーメントテンソル逆解析から推定された震源メカニズム(図2)の値186°, 52°を用いた。dip角52°は、臨時余震観測により求められた余震群の傾きと非常によく整合する。また、余震域を参考にして、断層面の大きさは、16kmx16kmとした。
 線形インバージョン法で解くため、断層面上のすべり破壊過程を時間・空間的に離散化た。空間的には2 km四方の小断層に分けた。時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅1秒のスムーズドランプ関数を0.5秒間隔で8つ並べることによって表現した。
 各小断層からの理論地震波形は、離散化波数法(Bouchon、1981)と反射透過係数法(Kennette and Kerry、1983)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加した(Sekiguchi et al.、2002)。
◎解析に用いた波形データ
 防災科研K-NET(地上)およびKiK-net(地中)の8点(図3)で得られた加速度強震波形に、0.05から0.5Hzのバンドパスフィルターをかけ、積分することにより得られた速度波形のS波部分をデータとした。
◎波形インバージョン
 各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は、観測記録と理論波形の差の最小二乗法により解いた。インバージョンには、すべり方向をモーメントテンソル解のメカニズムのすべり方向から片側45°の幅の中に納める拘束条件(NonNegative Least Square: Lawson and Hanson、1974)と、時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件をかけている。平滑化の強さは、ABICにより妥当な値を選んだ。第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は、観測と合成の波形の残差が小さくなるものを選んだ。
◎結果
 図4に推定されたすべり分布を、図5に観測波形と合成波形の比較を示す。破壊は北向き浅い方向に進展したことが見て取れる。破壊開始点付近ではほとんどすべっておらず、浅い部分に大きなすべりが見られる(南側のすべりが有意であるかどうかは再検討が必要)。最大のすべり量は84cm、モーメントMo=2.32 × 10**18 Nm (Mw = 6.2)である。 最適モデルを与える断層破壊モデルの「第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度」は3.4km/sであった。
 なお、広域の定常観測網(Hi-net)から推定される震源深さ12.9kmを用いて断層面を仮定して逆解析を行った場合でも、すべりが北向き浅い方向に進展し、大きなすべりが主に浅い部分に見られることから、今回の地震では浅い部分がすべった可能性は高いと考えられる。
◎考察
 今回の地震の最大震度は6強(気象庁発表)であり、建物等にも被害が生じた。また、波形は回収されていないながらも、自治体が設置した震度情報ネットワークでは1gを大きく越える加速度が記録された。一方で、大きな震度を記録した観測点は震源域に限られ、震央距離30kmの中に10点もの観測点を持つK-NET, KiK-netで記録された最も大きな加速度が300gal台であるなど、大きな地震動に見舞われた地域は震源極近傍に限定されるものと考えられる。
 今回我々は、東北大学による臨時余震観測により得られた余震分布をもとに断層モデルを設定し、破壊開始点も定常観測網から推定される震源深さ13kmより浅い6.5kmを用いた。その結果、断層の破壊は北向き浅い方向に進展し、すべり量の大きな領域は数kmの深さに分布するものと推定された。すべり量が大きな領域が浅い場所に推定されたことは、局所的に大加速度が観測された事実と対応すると考えられる。