近地強震動記録による宮城県沖の地震(2003/05/26,18:24)の震源インバージョン
*青井真、**関口春子、*功刀卓、*本多亮、*藤原広行
(*防災科学技術研究所、**産業技術総合研究所)
- ◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
- 図1に、防災科研Hi-netにより推定(再検測)された、本震(2003/05/26、18:24)から24時間の本震・余震分布を示した。本震の破壊開始点(赤線丸印)が、余震が分布している領域から3ないし4
km程度東側にずれていることが分かる。そこで、今回のインバージョン解析では、Hi-netの震源近傍20観測点のP波到達時刻のみから再計算して得られた(141.65739E、
38.81953N、 71.961 km;汐見、私信;黒線丸印)を破壊開始点として採用した。断層面は、Hi-netのP波の押し引き分布、F-netのモーメントテンソル逆解析から推定された震源メカニズム(図2)と予備解析結果(後述)から、2つの傾きの異なるセグメントを置いた。南セグメントは、10 km x 28 km、P波の押し引き分布に対応する傾きで破壊開始点を含む。北セグメントは、18 km x 28 km、モーメントテンソル解の傾きを持つ。
- 断層面上のすべり破壊過程は、時間・空間的に離散化して表現されている。空間的には2
km四方の小断層に分けた。時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅1秒のスムーズドランプ関数を0.5秒間隔で6つ並べることによって表現した。
- 各小断層からの理論地震波形は、1次元成層構造モデル(鵜川・他、1984)を仮定して、離散化波数法(Bouchon、1981)と反射透過係数法(Kennette and Kerry、1983)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加した(Sekiguchi et al.、2002)。
- ◎解析に用いた波形データ
- 防災科研K-NET(地上)およびKiK-net(地中)の17点(図3)で得られた加速度強震波形に、0.05から0.5Hzのバンドパスフィルターをかけ、積分することにより得られた速度波形のS波部分をデータとした。震源域の南側に広がる仙台平野以南の観測記録の多くは表面波が卓越しているため、1次元地下構造モデルでのモデル化が困難であるが、KiK-netのMYGH01の1,200 mのボアホールは仙台平野下の基盤に設置されており、震源解析のためには良好な波形が得られている。
- ◎波形インバージョン
- 各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は、観測記録と理論波形の差の最小二乗法により解いた。インバージョンには、すべり方向をP波の押し引きやモーメントテンソル解のメカニズムのすべり方向から片側45°の幅の中に納める拘束条件(NonNegative
Least Square: Lawson and Hanson、1974)と、時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件をかけている。平滑化の強さは、ABICにより妥当な値を選んだ。第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は、観測と合成の波形の残差が小さくなるものを選んだ。
- ◎結果
- 多くの観測点において観測波形の直達P波・S波部には明瞭な2つのパルスが見られる。予備解析として、モーメントテンソル解のメカニズムを持つ単一セグメントの断層面で波形インバージョンを行った結果、2つ目のパルスは再現できるものの、1つ目のパルスを再現することは出来なかった。これは、1つ目のパルスに相当するイベントのメカニズムが異なるためであると考えられる。そこで本解析では断層面を北側と南側の2つのセグメントに分割し、破壊開始点を含む南側のセグメントには防災科研Hi-netの押し引き分布から推定される面(図2)を採用し、破壊開始点の3 km北側でモーメントテンソル解のメカニズムを持つ北側セグメントと、破壊開始点の深さである72 kmで接続する断層モデルを用いた。
- 図4に推定されたすべり分布を、図5に観測波形と合成波形の比較を、図6に断層破壊過程をそれぞれ示す。大勢として破壊は北側に進展したことが見て取れる。南側セグメントの破壊開始点付近と、北側セグメントの深いところにそれぞれすべり量の大きな領域があり、それぞれ上で指摘した2つのパルスに対応する。 それぞれの破壊領域における最大のすべり量は7.9 m、8.9 mで、モーメントMo=7.6 x 10**19 Nm (Mw = 7.2)である。 最適モデルを与える断層破壊モデルの「第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度」は3.0km/sであった。ただし、この値を変えてもモデル・残差ともに大きくは変化しないため、有意であるかどうかは検討が必要。
- ◎考察
- モーメントテンソル解のメカニズムの単一断層面では観測波形に見られる顕著な2つのパルスが説明できないことから、複数の断層面を設定する必要がある。今回は、押し引き分布によるメカニズム解とモーメントテンソル解が異なることを根拠に、これぞれを南側・北側セグメントに設定した。余震分布を検討すると、破壊開始点より浅い部分と深い部分では傾斜角が異なっているようにも見えるし、余震域の北側で分岐等の複雑な様相があるようにも見える。これらの事実は、他の断層面設定の可能性を示唆しているかもしれない。また、モーメントはモーメントテンソル解や遠地波形インバージョンによる解の4
x 10**19Nm程度に比べ2倍程度大きい。これらの点を中心に、さらに検討を行う予定である。
