強震波形記録を用いた2008年7月24日岩手県沿岸北部の地震の震源インバージョン解析(2008/12/02改訂版)

はじめに

2008年7月24日0時24分頃に発生した岩手県沿岸北部の地震(Mj6.8; 気象庁)について、強震波形記録を用いた震源インバージョン解析を行った。

データ

図1に示す防災科学技術研究所のK-NET観測点2点、KiK-net地中観測点20点の計22観測点での強震加速度波形記録を積分して得た速度波形を用いた。 これらの速度波形に0.1~1Hzのバンドパスフィルタをかけ、5Hzにリサンプリングして、S波到達1秒前から16秒間を切り出し解析データとした。

断層面の設定

図1に示すHi-netのP波押し引きによるメカニズム解とF-netのモーメントテンソル逆解析によるメカニズム解には差異が見られる。 F-netのメカニズムによる単一の断層面を仮定した予備的なインバージョン解析では、IWT018やIWTH19などのいくつかの観測点で波形の一致度が十分ではなかった。 この結果に基づき、南部ではHi-net、北部ではF-netによる高角西傾斜の二枚の面からなる震源断層面(南部:16km×30km、strike=223°、dip=65°; 北部:14km×30km、strike=179°、dip=71°)を仮定した。 破壊開始点はHi-netの再検測による震源位置(39.7391°N、141.6704°E、深さ115km)とし、この点は南の断層面上に存在するとした。

断層破壊過程のモデル化

本解析ではマルチタイムウィンドウ線型波形インバージョン法(Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)に基づき、断層破壊過程を時空間的に離散化した。 空間的には、断層面を長さ2km、幅2kmの小断層で、走向方向は南部で8個、北部で7個、傾斜方向は南部・北部共通で15個に分割した。 時間的には、各小断層でのすべり時間関数を、破壊開始点から一定速度Vftwで広がる同心円が到達した時刻から、0.8秒幅のスムーズドランプ関数を0.4秒ずらして7個並べることにより表現した。 これにより、各小断層からの要素波形(グリーン関数)を通じて、断層破壊過程と各観測点での波形は線型の方程式で結び付けられる。

グリーン関数の計算

各小断層からの要素波形は、鵜川・他(1984)に基づく一次元成層構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon, 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算し、小断層内部の破壊伝播の効果(Sekiguchi et al., 2002)を付加して求めた。

波形インバージョン解析

各小断層の各タイムウィンドウでのすべり量を、観測波形と合成波形の差を最小とするように、最小二乗法を用いて求めた。 不等式拘束条件をつけた最小二乗法(Lawson and Hanson, 1974)を用いて、各小断層でのすべり方向の変化を、震源メカニズムのすべり角(南部:-131°; 北部:-98°)の±45度に収めた。 また時空間的に近接するすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)を付加した。 平滑化の強さはABIC(Akaike, 1980)を基準に決定し、Vftwは残差を最小とするものを選んだ。

結果

図2に推定された最終すべり分布を示す。 図3に観測波形と理論波形の比較を示す。 最大すべり量は2.4 m、断層面全体での地震モーメントは2.82×1019 Nm(Mw 6.9)、Vftwは3.6 km/sである。 破壊開始点北側のF-netモーメントテンソル解に対応する断層面上にすべりの大きい領域が見られる。
図4に南部(青)と北部(赤)の断層面のすべりによる合成波形への寄与を示す。 震源より南に位置する観測点(例えばIWTH04、IWTH22、IWTH27)では二つのパルス波が見られ、震央近傍から北にかけての観測点では主要なパルス波が一つ見られる。 南の観測点については、一つ目のパルス波は破壊開始点南側のすべりにより、二つ目のパルス波は北側のすべりにより生成されている。 一方、パルス波が一つしか見られない観測点の多くでは、パルス波は主として北側の大きなすべりにより生成されており、南側のすべりによる波はパルス波の前のやや小振幅のフェーズとして現れたりパルス波に重なっているがその寄与はあまり大きくない。 Hi-netのメカニズムを仮定することにより波形一致の改善を図ったIWT018やIWTH19などの観測点での波については、南側のすべりが主として生成に寄与している。

(文責:鈴木亘、青井真(防災科学技術研究所)、関口春子(京都大学防災研究所))

2008/08/06に公開した暫定版はこちらです。
2022/08/02に加筆や体裁の修正を行いました。本結果は論文(Suzuki et al., 2009)として発表されています。

fig1

図1:観測点分布(▼:地表観測点、▲:地中観測点)、断層面の地表投影及び震源メカニズム解。 星印は震央を示す。

fig2

図2:断層面上の最終すべり分布。 ベクトルは上盤のすべり方向とすべり量を示している。 星印は破壊開始点、黒丸は2つの断層面の接続点を示す。

fig3

図3:観測波形(黒線)と合成波形(赤線)の比較。 波形の右上にそれぞれの最大値を示す。

fig4

図4:南部(青)と北部(赤)の断層面のすべりによる合成波形への寄与。