強震波形記録を用いた2022年3月16日福島県沖の地震の震源インバージョン解析

はじめに

2022年3月16日23時36分頃に発生した福島県沖の地震(Mj7.4; 気象庁)について、強震波形記録を用いた震源インバージョン解析を行った。

データ

図1に示す防災科学技術研究所のK-NET観測点8点、KiK-net地中観測点5点の計13観測点での強震加速度波形記録を積分して得た速度波形を用いた。 これらの速度波形に0.05~0.5Hzのバンドパスフィルタをかけ、5Hzにリサンプリングして、S波到達2秒前から30秒間を切り出し解析データとした。

断層面の設定

AQUA-CMT解析の結果から走向17度、傾斜45度の断層面を設定し、走向方向の長さは44km、傾斜方向の幅は24kmとした。 破壊開始点は、気象庁震源に基づき、北緯37.6967度、東経141.6217度、深さ57 kmにおいた。

断層破壊過程のモデル化

本解析ではマルチタイムウィンドウ線型波形インバージョン法(Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)に基づき、断層破壊過程を時空間的に離散化した。 空間的には、断層面を長さ4km、幅4kmの小断層で、走向方向11個、傾斜方向6個に分割した。 時間的には、各小断層でのすべり時間関数を、破壊開始点から一定速度Vftwで広がる同心円が到達した時刻から、1.6秒幅のスムーズドランプ関数を0.8秒ずらして5個並べることにより表現した。 これにより、各小断層からの要素波形(グリーン関数)を通じて、断層破壊過程と各観測点での波形は線型の方程式で結び付けられる。

グリーン関数の計算

各小断層からの要素波形は、一次元地下構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon, 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算した。 小断層内部の破壊伝播の効果に関しては、小断層内に25個の点震源(走向方向、傾斜方向それぞれ5列)を分布させることにより付加した。 地下構造モデルは、藤原・他(2009)による三次元地下構造モデルの各観測点直下の情報を用いて観測点ごとに構築した。 KiK-net観測点については速度検層の情報も利用した。

波形インバージョン解析

各小断層の各タイムウィンドウでのすべり量を、観測波形と合成波形の差を最小とするように、最小二乗法を用いて求めた。 不等式拘束条件をつけた最小二乗法(Lawson and Hanson, 1974)を用いて、各小断層でのすべり方向の変化を、AQUA-CMT解のすべり角である101度の±45度に収めた。 また時空間的に近接するすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)を付加した。 平滑化の強さはABIC(Akaike, 1980)を基準に決定し、Vftwは残差を最小とするもの(2.4 km/s)を選んだ。

結果

図2に推定された最終すべり分布を示す。 図3に最終すべり分布の地表投影を示す。 図4に断層破壊の時間進展過程を示す。 図5に観測波形と理論波形の比較を示す。 最大すべり量は6.2 m、断層面全体での地震モーメントは1.3×1020 Nm(Mw 7.4)である。 すべりの大きい領域は主に破壊開始点の北に位置する。 主たる破壊は破壊開始から2.5-7.5秒後と7.5-12.5秒後に生じていた。

(文責:久保久彦、鈴木亘、青井真(防災科学技術研究所)、関口春子(京都大学防災研究所))

2023年8月28日公開

fig1

図1:観測点分布および断層面の地表投影。 星印は震央を示す。

fig2

図2:断層面上の最終すべり分布。 ベクトルは上盤のすべり方向とすべり量を示している。 星印は破壊開始点を示す。

fig3

図3:すべり分布の地表投影。 黒星は破壊開始点を示す。 また防災科研が推定した2021年2月13日福島県沖の地震のすべり分布(青線、コンター間隔1m)と破壊開始点(青星)も示す。 紫星は2022年3月16日23時34分頃の地震(M6.1)を示す。 黒丸は2022年3月16日福島県沖の地震の発生から2022年3月17日7時までの地震活動のHi-net震源位置を示す。

fig4

図4:破壊の時間進展過程。 2.5秒ごとのすべり分布を地表投影している。

fig5

図5:観測波形(黒線)と合成波形(赤線)の比較。 波形の右上にそれぞれの最大値を示す。