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● 近地強震動記録による2007年新潟県中越沖地震の震源インバージョン(暫定版)

(2007/8/1、最終更新:2007/8/17)

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 2007年7月16日10時13分に発生した新潟県中越沖地震(37度33.4分、138度36.5分、深さ17km;気象庁)について、K-NET, KiK-net等の断層近傍の強震波形記録を用いて、震源過程のマルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン(Hartzell and Heaton, 1983)を行った。

◎断層面モデルと震源過程のパラメータ化
 図1に、Hi-netの再検測による本震後約24時間以内の余震分布と、Hi-netの押し引き及びF-netのモーメントテンソル逆解析から推定された震源メカニズムを示す。余震分布等からはいずれの断層面が本震時にすべったかの確証が得られないため、インバージョンは北西傾斜断層モデル(モデルA)および南東傾斜断層モデル(モデルB)の両方で行った。それぞれ、メカニズムはF-netのモーメントテンソル解の北西傾斜(走向215°、傾斜49°、すべり角80°)、南東傾斜(走向49°、傾斜42°、すべり角101°)の面とし、破壊開始点は、Hi-netの再検測値を用いたDD法による解析(行竹・他、2007)で推定された震央(37.5397N, 138.6091E)とした。深さに関してはDD法による震源が7.417kmと浅く推定されたことを考慮し、深さ8kmに置いた。大きさは余震分布の広がりを参考に、長さ30km、幅24kmとした(図1に示した長方形)。 インバージョン解析(Hartzell and Heaton ,. 1983)において、断層面上のすべり破壊過程は、時間・空間的に離散化して表現されている。空間的には2km四方の小断層180個(15×12)に分けた。時間的には各小断層において破壊開始点から一定速度で広がる同心円が到達してから時間幅1.0秒のスムーズドランプ関数を0.5秒間隔で6つ並べることによって表現した。各小断層からの理論波形は、反射法地震探査やボーリング調査等による地下構造の情報をもとに観測点ごとに異なる一次元成層構造モデルを仮定して、離散化波数法(Bouchon, 1981)と反射透過係数法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算し、これに小断層内部の破壊伝播の効果を付加した(Sekiguchi et al., 2002)。
◎解析に用いた波形データ
 防災科研K-NET、KiK-net(地中)、F-net、気象庁(上越市中ノ俣:以下、JMACB6)および新潟県の自治体震度計(出雲崎町川西:以下、L65039)の計14観測点(図1)で得られた強震波形に、0.1〜1.0Hz(1〜10秒)のバンドパスフィルターをかけた。速度記録であるF-net以外の観測点については、加速度記録を積分し速度波形とした。F-netに関しては、速度型強震計(VSE-355G2)の波形を用いた。速度波形のS波部分14秒間を切り出し(S波到達時刻の1秒前から13秒後まで)、解析データとした。
◎波形インバージョン
 各小断層の各タイムウィンドウのすべり量は、観測記録と理論波形の差を最小とするように、最小二乗法により解いた。インバージョンには、すべりの方向をモーメントテンソル解のメカニズムのすべり方向(北西傾斜の断層面の場合は80°、南東傾斜の断層面の場合は101°)から片側45°の幅の中に収める拘束条件(Non Negative Least Square: Lawson and Hanson, 1974)と、時間的・空間的に近接したすべりを平滑化する拘束条件をかけている。平滑化の強さは、ABICにより妥当な値を選んだ。第一タイムウィンドウをトリガーする同心円の伝播速度は、観測と合成の波形の残差が小さくなるものを選んだ。
◎結果
 図2A,Bに推定されたすべり分布を、図3A, Bに観測波形と合成波形の比較を示す。
【モデルA:北西傾斜断層面】インバージョンの最適解の断層面全体での地震モーメントMoは1.42×1019Nm(Mw=6.7)であった。破壊開始点よりも南西側(柏崎市側)で破壊開始点より深い部分にすべりの大きい領域がある。このアスペリティは、観測波形に2個または3個見られるパルスのうち後の方に寄与したとみられる。
【モデルB:南東傾斜断層面】インバージョンの最適解の断層面全体での地震モーメントMoは1.62×1019Nm(Mw=6.7)であった。破壊開始点よりも南西側(柏崎市側)で破壊開始点の深さから浅い側にかけてすべりの大きい領域がある。
南東傾斜及び北西傾斜のどちらの断層面を仮定した場合でも、破壊開始点付近に小さなすべりがあり、その南西十数kmのところに最大のすべり(モデルA、Bでそれぞれ約2.2m、2.5m)が推定された。本解析では、二通りのインバージョンにより再構成した合成波形・残差結果には明白な優劣の差は得られなかったため、現時点では、どちらの断層面が妥当であるかを判断し難い。
両モデルにおいて最も大きなすべりが推定される領域は地図投影するとほぼ同じ場所に位置し、余震の発生が少ない領域とほぼ重なる。このすべりの大きな領域は、北西傾斜と南東傾斜の両断層面が交差する部分に位置しており、共役な断層面から生じる地震波の放射特性も似ているため、いずれの解が適切であるかを推定することを困難にしていると考えられる。今後、測地データ等を考慮した断層面の設定を行う必要がある。

謝辞:新潟県により記録・収集された自治体震度計データを使用させていただきました。

注:なお、本解析は暫定的なものであり、今後修正される可能性がある。

(文責:青井真*・関口春子**・森川信之*・功刀卓*・白坂光行***: *防災科研・**産総研・***気象庁)



インバージョン解析に用いた2つの断層面とそれに対応する震源モデル。黒丸は、解析に用いた観測点。


推定されたすべり分布の地表投影。左:モデルA(北西傾斜断層モデル)、右:モデルB(南東傾斜断層モデル)。青色で示した○はDD法により推定された余震分布。すべりの大きな部分は余震の少ないところと一致する。