はじめに
2008年6月14日8時43分頃に発生した平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震(Mj7.2; 気象庁)について、強震波形記録を用いた震源インバージョン解析を行った。
データ
図1に示す防災科学技術研究所のK-NET観測点1点、KiK-net地表観測点1点、KiK-net地中観測点12点の計14観測点での強震加速度波形記録を積分して得た速度波形を用いた。 これらの速度波形に0.1-1Hzのバンドパスフィルタをかけ、5Hzにリサンプリングして、解析データをS波到達1秒前から切り出した。 後続波の影響度合いにより、データ長は観測点ごとに9秒、10秒、11秒、16秒のいずれかとした。
断層面の設定と断層破壊過程のモデル化
F-netのモーメントテンソル逆解析の結果から断層面の走向は209度、傾斜角は断層面の浅部延長が地表断層出現位置(産業技術総合研究所, 2008)に整合する40度とし、走向方向の長さは40km、傾斜方向の幅は18kmとした。
破壊開始点は、汐見・他(2009)に基づき、北緯39.027度、東経140.878度、深さ6.5kmにおいた。
本解析ではマルチタイムウィンドウ線型波形インバージョン法(Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)に基づき、断層破壊過程を時空間的に離散化した。
空間的には、断層面を長さ2km、幅2kmの小断層で、走向方向20個、傾斜方向9個に分割した。
時間的には、各小断層でのすべり時間関数を、破壊開始点から一定速度Vftwで広がる同心円が到達した時刻から、0.8秒幅のスムーズドランプ関数を0.4秒ずらして7個並べることにより表現した。
これにより、各小断層からの要素波形(グリーン関数)を通じて、断層破壊過程と各観測点での波形は線型の方程式で結び付けられる。
各小断層からの要素波形は、一次元地下構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon, 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算し、小断層内部の破壊伝播の効果(Sekiguchi et al., 2002)を付加して求めた。
地下構造モデルは、藤原・他(2006)による三次元地下構造モデルの各観測点直下の情報を用いて観測点ごとに構築した。
KiK-net観測点については速度検層の情報も利用した。
波形インバージョン解析
各小断層の各タイムウィンドウでのすべり量を、観測波形と合成波形の差を最小とするように、最小二乗法を用いて求めた。 なおIWTH25は断層面直上に位置する唯一の観測点であることを考慮して重みを他の観測点の4倍とした。 不等式拘束条件をつけた最小二乗法(Lawson and Hanson, 1974)を用いて、各小断層でのすべり方向の変化を、F-netメカニズム解のすべり角である104度の±45度に収めた。 また時空間的に近接するすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)を付加した。 平滑化の強さはABIC(Akaike, 1980)を基準に決定し、Vftwは残差を最小とするものを選んだ。
結果
図2に推定された最終すべり分布を示す。
図3に最終すべり分布の地表投影を示す。
図4に断層破壊の時間進展過程を示す。
図5に観測波形と理論波形の比較を示す。
最大すべり量は6.2 m、断層面全体での地震モーメントは2.73×1019 Nm(Mw 6.9)、Vftwは1.8 km/sである。
すべりの大きい領域は破壊開始点から地表断層の現れた南部の浅い領域にかけてと、断層面北部の浅い領域に見られる。
破壊開始後4 秒間のすべりはIWTH25直下で生じ、その後9 秒後までは大きいすべりが南部の浅い領域へ伝播していく様子が見られる。
南部の浅い領域のすべりが終了する頃北部のすべり領域の破壊が開始し,12 秒程度でおおよその断層破壊は終息した。
IWTH25直下のすべりは同観測点での大振幅の地震動の生成に大きく寄与したと考えられる。
(文責:鈴木亘、青井真(防災科学技術研究所)、関口春子(京都大学防災研究所))