はじめに
2018年9月6日3時8分に発生した平成30年北海道胆振東部地震(Mj6.7; 気象庁)について、強震波形記録を用いた震源インバージョン解析を行った。
データ
図1に示す防災科学技術研究所のK-NET観測点4点、KiK-net地中観測点14点の計18観測点での強震加速度波形記録を積分して得た速度波形とF-netの2観測点での強震速度波形記録を用いた。 これらの速度波形に0.05-0.5Hzのバンドパスフィルタをかけ、5Hzにリサンプリングし、S波到達1秒前から25秒間を切り出し解析データとした。
断層面の設定と断層破壊過程のモデル化
地震後の余震活動分布およびF-netのモーメントテンソル逆解析の結果を参考に、上端長さ約22km、幅20km、傾斜65度の曲面断層面を仮定した。
図2に仮定した曲面断層面モデルを示す。
破壊開始点は、気象庁震源に基づき、北緯42.6908度、東経142.0067度、深さ37.04kmにおいた。
本解析ではマルチタイムウィンドウ線型波形インバージョン法(Olson and Apsel, 1982; Hartzell and Heaton, 1983)に基づき、断層破壊過程を時空間的に離散化した。
空間的には、断層面を長さ最大2km、幅2kmの小断層で、走向方向15個、傾斜方向10個に分割した。
時間的には、各小断層でのすべり時間関数を、破壊開始点から一定速度Vftwで広がる同心円が到達した時刻から、0.8秒幅のタイムウィンドウを0.4秒ずらして8個並べることにより表現した。
これにより、各小断層からの要素波形(グリーン関数)を通じて、断層破壊過程と各観測点での波形は線型の方程式で結び付けられる。
各小断層からの要素波形は、一次元地下構造モデルを仮定し、離散化波数積分法(Bouchon, 1981)と反射・透過係数行列法(Kennett and Kerry, 1979)により点震源の波形を計算し、小断層内部の破壊伝播の効果を25個の点震源(走向方向、傾斜方向それぞれ5列)を分布させることにより表現した。地下構造モデルは、藤原・他(2009)による三次元地下構造モデルの各観測点直下の情報を用いて観測点ごとに構築した。KiK-net観測点については速度検層の情報も利用した。
波形インバージョン解析
各小断層の各タイムウィンドウでのすべり量を、観測波形と合成波形の差を最小とするように、最小二乗法を用いて求めた。 不等式拘束条件をつけた最小二乗法(Lawson and Hanson, 1974)を用いて、各小断層でのすべり方向の変化を、F-netメカニズム解のすべり角である107度の±45度に収めた。 また時空間的に近接するすべりを平滑化する拘束条件(Sekiguchi et al., 2000)を付加した。平滑化の強さはABIC(Akaike, 1980)を基準に決定し、Vftwは残差を最小とするものを選んだ。
結果
図3にすべり分布の地表投影を、
図4にすべり分布の平面投影を示す。
図5に断層破壊の時間進展過程を示す。
図6に各小断層でのすべり速度時間関数を示す。
図7に観測波形と理論波形の比較を示す。
最大すべり量は3.8m、断層面全体での地震モーメントは2.5×1019Nm(Mw 6.9)である。
Vftwは波形の合い具合から1.4km/sとした。
大きなすべりが震源からup-dip方向の深さ25-30kmの領域において見られる。
この大きなすべりの領域は、破壊開始6-12秒後において、up-dip方向へ進展した主たる断層破壊によって生じた。
*本研究の詳細はKubo et al. (2020)をご参照ください。
(文責:久保久彦、岩城麻子、鈴木亘、青井真(防災科学技術研究所)、関口春子(京都大学防災研究所))