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3.2 いったい何を予測するか



写真3.2-1 淡路島で見られた野島断層で切られたあぜ道の両側に人が立っている.[copyright (株)大崎総合研究所]



図3.2-1 兵庫県南部地震の神戸海洋気象台での強震記録



図3.2-2 3つの異なる波長の成分を重ねた波形


図3.2-3 異なる固有周期の振り子の応答と応答スペクトルとの関係.[大崎(1993)による]

 写真3.2-1は兵庫県南部地震の淡路島に現われた断層の写真である。断層面保護のために青いビニールシートがかけられているが、断層で切れた田んぼのあぜ道の両側に人が立っている。地面が1.8mくらいずれたことが分かる。ところで、もしもこのずれがゆっくり、徐々に動いたとすれば、確かにあぜ道は切れたであろうが、大きな揺れにはならなかったであろう。では物理的に考えて、この変位が短時間で起こる:すなわち速い速度でずれることが大きな被害に結びつくのであろうか?もちろん速度も重要なファクターである。しかし我々が乗り物に乗り、一定速度で走っているときの安定感は停止状態と似たものがあろう。そう、わらわれが物理の授業で習ったように、物を破壊するような力は、加速度に比例する。すなわちこの断層が滑る速度に達した時間およびその速度から停止に要した時間が短いほど、加速度が大きい。車の運転にたとえれば、急加速して、急停車するほど、かかる力が大きいことに相当する。

 K-netは地震動をこの加速度で観測している。加速度を計測する地震計は、速度や変位を測る地震計よりも丈夫で、強い地震動を観測することが出来る。加速度で観測される地震動を、その大きさとは無関係に強震動と呼ぶ。兵庫県南部地震の強震観測記録(強震観測波形ともいう)の一例(神戸海洋気象台)を図3.2-1に示す。この記録は0.02秒ごとに加速度を記録しており、30秒間に1500データを要する。近年データ処理技術が進んできたとはいえ、最大加速度(英語ではPeak Ground Acceleration:PGAと呼ぶ)をこの記録中の代表として扱えば、1データで済む。この時の最大振幅は絶対値が重要であって、符号のプラスマイナスは問わない。観測機関によっては、データの守秘義務があるので、この最大振幅のみを公表する所もある。

 複雑そうに見える波形の一部を模式的に取出してみよう。しかしながらこの波形を分解すると、周期の異なる3つの波に分解できる。この例は非常に簡略化された例であるが、どのように複雑な観測波形でもいくつかの周期の違った単純な波に分解できる。(図3.2-2)

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ところで、長い振り子をいくら細かく揺すっても揺れにくく、逆に短い振り子をゆっくり揺すってもゆっくり動くだけで加速度は生じにくいことはご存知のことと思われる。中くらいの長さの振り子を中くらいの周期で揺すったときに、最も大きく揺れることがある。この周期を共振周期と呼ぶ。様々な長さの振り子を並べ、揺すってみると、全部を同時に揺らすことが非常に困難なことが分かる。このことが先の写真で被害の明暗を分けた大きな原因の一つである。そう、神戸市庁舎の超高層建築が大きな被害を受けずに、中層建物が壊滅的打撃を受けた理由は、超高層建築が揺れにくい周期、しかし中くらいの高さの建物が揺れやすい周期の地震波が襲ったことを意味する。高速道路とマンションの被害のちがいも、周期の違いが原因の一つである。地震動が様々な周期の振り子を揺すり、最も大きな加速度で揺れたとき、この加速度を加速度応答値と呼ぶ。もちろん振り子を揺するのを止めれば振り子の揺れは自然に止まる。これはその振り子の揺れを弱める減衰が存在するからである。それは空気抵抗であったり、摩擦熱であったりするが、ここでは一周期でどのくらい減衰するかを%で表して減衰定数と呼ぼう。つまり加速度応答値と言うときには減衰定数何%という条件が付随する。加速度に質量を乗ずれば力になる。すなわち、たとえば減衰定数2%の構造物があれば、その建物の重量を算定し、2%減衰の加速度応答値を乗じてやれば、地震動により加わる力が簡単に計算できる仕組みになっている。前述の応答スペクトルは、様々な周期の振り子の応答値を並べたもので、構造物の設計に非常に有用である(大崎, 1993)。

地震動強さの統計的推定法では、主に「最大加速度」と「5%減衰の応答スペクトル」をできるだけ精度良く推定し、地震による災害を軽減することが大きな目的である(図3.2-3)。





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