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第3章 強震動の統計的推定法


3.1 統計的推定法の目的


写真3.1-1 兵庫県南部地震
で被災した神戸市庁舎
[copyright(株)大崎総合研究所]



図3.1-2 地震と地震動のちがい

 地震大国日本は、たびたび強い地震に襲われて、大きな被害を被り、尊い人命が奪われてきた。そういった過去の経験を生かして何とか被害を最小限に食い止め、できるだけ多くの人命を救うには、地震がいつ発生するかを予知することの他に、地震が発生したらどんな大地の揺れになるかを推定して、対策をとる方法もあろう。そう、ここではいつ起きるかを推定するのではなく、どう揺れるのかを過去のデータに基づいて推定する方法についてお話したい。この推定式は慣用的に距離減衰式と呼ばれる。

 写真3.1-1は1995年兵庫県南部地震で壊れた神戸市庁舎の写真である。手前のビルの中間階が破壊されているのに、後ろに見える超高層ビルは大きな被害を免れている。このことから地震動で全ての構造物が一様に被害を被るのではないことが分かる。すなわち地震動の性質を適切に知れば、少なからずその対策が可能となってくるだろうことが分かる。

◇◇◇

 ところで、地震と地震動という言葉のちがいを説明しておきたい。地震が発生して地面の揺れを感じると、人々は今の地震は大きかった、地震で壁にひびがはいったなどと口々に言う。一方、今の地震は北海道の沖で起きました。あるいは今の地震の深さは何十kmでしたなどとテレビで即座に報道されたりもする。この報道で地震は私たちの居る場所で起きているとは言っていない。ここで言う地震は私たちの立っている地面で起きたのではなく、北海道の沖、あるいは地中数十kmで起きているのである。それでは私たちが感じている地面の揺れはいった何なのか?断層がずれて地震が発生し、地震波が地表へ伝播して地面が揺れる。この揺れを正確には地震動と呼ぶ。一般にはあまり使われていない言葉かもしれないが、実際に我々は地震動を感じ、この地震動が防災や構造物の設計などに大きな影響を及ぼす(なお、地震動という言葉は中央気象台(現在気象庁)の地震観測法(昭和27年)の1ページ目にすでに定義されている)(図3.1-2)。特に大きな被害を及ぼす強い地震動のことを強震動と呼ぶ。ところで加速度計(後述の地面の揺れを加速度で計測する地震計)はもともとこの強震動を記録する目的で作られたので、慣用的に加速度計の記録を大小に拘らず強震動と呼ぶこともある。

 さて他の章でも紹介されているように、地震動の研究は今日急速に進歩し、物理に基づいて、かなりの解析が可能となってきた。しかし地中深部の地層を正確に知ることが必要であったり、地中にはいろいろなばらつき(不均質性)があり、精度よく計算するには、ばらつきの度合いを知る必要がある。一方、関東大震災以来、実際には多くの観測点で地震動が観測されている。これらの観測記録を見るとばらつきが大きく、同じような条件でも倍または半分の誤差はあたりまえである。ばらつきは大きいものの、データを統計解析して平均値と標準偏差(ばらつきの平均値のこと)で、地震動を表してやることが統計的推定法の目的である。他の方法と比べれば、原始的な方法ではあるが、観測記録に最も忠実な方法ではあろう。


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