● (最大)加速度・(最大)速度・計測震度について
以 下に、一般の方を対象に、地震の際の最大加速度、最大速度、計測震度に関して解説を試みます。厳密性を求めるとかえって説明が分かりにくくなりますので、 多少の例外等には目をつぶった説明をします。出来る限り誤解等のないように心がけますが、お気づきの点があればご指摘いただければ幸いです。なお、本ペー ジの記述は必ずしも防災科研の公式見解ではありません。

 地震波による地面(地震動)の揺れは、地震計(特に強いゆれを計測するための地震計を強震計という)で観測します。一個(一成分)の地震計では一 方向の揺れしか計測することが出来ません。通常三つの地震計を組み合わせて、観測を行います。例えば、地震計を東の方向に向けると、東西の揺れをはかるこ とが出来き、これを『東西成分』と呼びます。東西成分以外に南北成分、上下成分を組み合わせた三成分で観測を行います。
 地面の揺れは、一秒間に100から200回程度(100Hzから200Hz)、1分から数分にわたって計測されます。従って、1回の地震の1観測点の データは数万個の数字の固まりです(例えば、3成分 x 120秒 x 100Hz = 36000データ)。このようなデータは非常に多くの情報を含んでいますが、解析を行って情報を抽出しなければなりません。誰でもすぐに分かる指標とし て、計測震度や最大速度、最大加速度などがよく用いられ、このような指標は1個の数字ですので非常に把握はしやすいのですが、数万個のデータに比べれば当 然情報が失われています。特に、地震動の時間変化の情報が失われるために、周波数特性の違いが反映されにくくなります。
 それぞれの指標は下の表のような特徴を持っています。

単位 解説
加速度 [m/s2], [cm/s2] [gal]
([cm/s2 ]と[gal]は同意味)
変位(位置とほぼ同義)の二階微分、速度の一階微分 (『車が加速する』と言うときの加速とほぼ同義)。
加速度に質量を掛けたものが力(ma=F)であることから、静的な釣り合いの関係に注目する立場から地震のインパクト(地震力)を見る場合、最大加速度が指標となる。
速度 [m/s], [cm/s] [kine]
( [cm/s]と[kine]は同意味)
現在では、[kine]はあまり用いられない
変位の一階微分 (『車の進む速度』と言うときの速度と同義)。
構造物の被害は、最大加速度に比べ最大速度と良い相関があるといわれている。
計測震度 単位無し 被害や体感との相関を目指したもので、気象庁が使用している指標。地震時の、行政対応等の判断に用いられている。
以前は、震度を体感で決めていたが、現在では計測震度計(広い意味で地震計の一種)で機械的に計測されている。

 ・ 計測震度と最大速度・最大加速度との関係
 観測された地震波計から、計測震度を求める方法は、気象庁により決められ、官報に告示されている。理科年表にも載っており誰でも見ることの出来るもの で、決して恣意的に決定されるものではありません。計測震度は、最大速度と最大加速度の中間的な性質を持っており、さらに、ある程度揺れの継続時間も考慮 されています。フィルターの特性は概ね周期2秒(周波数0.5Hz)にピークを持っている。これは、被害や体感が周期1〜2秒前後の、速度及び加速度(含 む継続時間)に大きな関係があることを反映したものです。

 ・ 地盤について
 地震動は、その地点(及び周辺)の地盤の影響を大きく受けます。基本的には、軟弱な地盤では地震 波は増幅されやすく、硬質な地盤では地震動は小さくなる傾向にあります。ただし、軟弱な地盤の厚さ(や複数の層の組み合わせ)によって、周波数特性(増幅 されやすい周波数とされにくい周波数がある)が異なるため、一概に言うことは出来ません。地盤の特性の違いのために、同じ地震であっても卓越周波数が地点 によって異なります。また、高周波が卓越すれば加速度が大きく、また、長周期(低周波)が卓越すれば速度が大きくなる傾向にあります。また、例えば、加速 度(あるいは速度)だけが大きいような記録の場合、必ずしも計測震度が大きくないなどということも起きえます(逆もしかり)。
 また、浅い地盤はほんの少し離れた場所でも大きく異なることがあるため、近い地域・場所でも大きく地震動(結局は、計測震度と最大速度・最大加速度も)が変化します。
 この他に、地盤自体が崩れたり液状化など、地震動以外の要因があります。

 ・ 計測震度と最大速度・最大加速度との関係
 これらの指標は、交互にある程度の相関はあり、最大速度や最大加速度が大きければ計測震度が大きい傾向にあるのは当然です。ただし、一対一の関係がある わけではありません。地震動の周波数特性により、最大速度は大きいけれど最大加速度は小さい場合や、逆の場合もあります。計測震度との関係の同様のことが 言えます(例えば、伯野元彦, 2003)。下記で詳しく述べますので、参考にしてください。
 なお、被害に関しては、構造物の種類や大きさ等(=固有周期や減衰)、強度などの要因があるため、同じ地震動でも同じ被害が出るとは限りません。そういう意味で、計測震度等の指標との関係は、地震動以上に複雑な要因が絡んでいると言えます。

 ・ 計測震度計について
 なお、計測震度計は一台一台気象庁の検定に合格することによって始めて正式に認定されるものですので、通常の地震計の記録から計算したものは正式な計測 震度としては認められません。防災科研の強震計のうち、K-NETは震度計の機能を有しており、そのうち777地点(平成19年3月)に関しては、気象庁 を通じて震度値が公表されています。

◎ K-NET、KiK-netの主要(&特徴的な)記録の最大速度、最大加速度

これまでに、K-NET・KiK-netで記録された記録から、速度または加速度が大きなものを記録について、下記に纏めた。参考のために、1995年兵庫県南部地震の代表的な記録についても併記した。

地震名 日時 (JST) 観測点名 最大加速度 [gal] 最大速度 [cm/s] 備考
北南 東西 上下 3成分 北南 東西 上下 3成分
新潟県中越地震 2004/10/23, 17:56 気象庁川口 1142 1676 870 1722 50.3 146.0 82.9 148.3 震度7 @
K-NET小千谷(NIG019) 1144 1308 820 1500 97.5 128.7 39.0 136 震度相当値7 A
気象庁小千谷 779 897 730 1007 65.6 84.1 28.1 95.3 震度6強 A’
気象庁山古志 524 722 1059 1132 107.2 88.5 56.4 125.3 震度6強 B
K-NET十日町 (NIG021) 1716 849 564 1750 53.1 50.0 13.6 65.5 震度相当値6強、加速度大 C
新潟県中越地震
(余震)
2004/10/23, 18:34 気象庁川口 1639 2036 549 2516 42.5 66.5 17.0 68.0 震度6強。加速度本震より大。
速度はそれほどでもない
D
鳥取県西部地震 2000/10/06, 13:30 KiK-net日野(TTRH02) 923.9 755.9 775.9 1142 127.1 83.3 56.0 147.2 震度相当値7 E
宮城県沖地震 2003/05/26,18:24 KiK-net住吉(IWTH04) 729.6 723.1 1280 1304.5 31.4 31.8 17.0 36.6 高周波(短周期)卓越 F
KiK-net陸前高田(IWTH27) 887.9 555.8 636.6 1098.0 17.2 12.0 9.47 18.2 高周波(短周期)卓越 G
十勝沖地震 2003/09/26, 04:50 K-NET苫小牧(HKD129) 86.7 72.9 33.0 89.3 31.4 38.9 16.0 40.0 長周期(低周波)卓越 H
K-NET広尾(HKD100) 809.5 969.8 461.2 985.8 43.5 46.7 24.3 52.4   I
兵庫県南部地震 1995/01/17,05:46 神戸海洋気象台(JMA) 818.0 617.3 332.2 891.0 96.5 80.3 42.9 112.1   J
JR鷹取 608 645 280 759 129.7 135.8 12.6 169.1 K
葺合(大阪ガス) 688.0 800.7 N/A 835.8 59.6 126.9 N/A 134.6 上下動なし。2成分合成 L
能登半島沖地震 2007/03/25,09:42 K-NET穴水(ISK005) 473 782 556 903 34.6 98.7 18.6 103.7 M
K-NET富来(ISK006) 717 849 462 945 38.4 50.5 21.4 60.1 N
新潟県中越沖地震 2007/07/16,10:13 K-NET柏崎(NIG018) 667 514 369 813 (109.7) (83.5) (26.7) (126.8) 強い非線形 O
K-NET小千谷(NIG019) 391 455 116 527 21.3 45.8 9.0 47.9 P

注:上記表中の『3成分』は『3成分ベクトル合成最大値』を意味します。

◎ 最大加速度(PGA) vs 最大速度(PGV)

図中の○で囲んだ数字は、上記表の最右欄に示した地震に対応する。
ピンクで示したのは、PGVが100cm/s以上かつPGAが800gal以上の領域で、川瀬(1998)が示した、構造物に対し大きな被害がでる目安である。
点線で示したのは、等価卓越周波数(PGA/PGV/2π)が、0.5, 1.0, 2, 5Hz。

@ABEJKLは周期1-2秒前後の、木造・中低層構造物の被害を引き起こす周期帯の地震波が卓越しており、速度・加速度共に大きな値を示している。
Hは速度に比して加速度が極端に小さく、通常の構造物に対しては被害を及ぼしにくいと考えられるが、長大構造物(超高層ビル・長大橋・大型タンクなど)の被害を引き起こす長周期地震動。
FGは加速度に比して速度が極端に小さいため、通常の構造物に対しては被害を及ぼしにくいと考えられる。
□2'は、ちょうど境界領域であると言える。

○ 参考文献:
伯野元彦 (2003). 世界最高2,005ガルでも無被害, 地震ジャーナル,36号,50-51.
川瀬博 (1998). 断層近傍強震動の地下構造による増幅プロセスと構造物破壊能, 第10回日本地震工学シンポジウム, パネルディスカッション資料集, 29-34.
武村雅之(1998). 過去の地震被害から見た震源近傍での強震動, 第10回日本地震工学シンポジウム, パネルディスカッション資料集, 45-50.
青井・他(2006). 新潟県中越地震の地震動, 月刊 地球/号外 No.53, 2006.

             注:青井・他(2006)の表1において、神戸海洋気象台の最大加速度および最大速度の南北成分と東西成分が入れ替わっておりま す。

○ 謝辞:
気象庁、大阪ガス、JRのデータを使用させていただきました。期して感謝いたします。

(文責・(独)防災科学技術研究所 青井真、aoi@bosai.go.jp)