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第III部 地震動の数値計算法

第1章 地震動の数値計算法

1.1 はじめに

 地震動の定量的な評価の手法として、弾性波動方程式に基づいた数値計算手法がある。数値計算手法は、計算機の進歩とともに発展してきており、現在では地震動評価手法の大きな柱の一つとなっている。しかし、こうした計算手法を学び、自分でプログラムを書いて計算しようとした場合、すぐに気づくのは、日本語で丁寧に書かれた教科書がないということであろう。原著論文や高度な専門書がすぐに手に入る恵まれた環境にいる人にとっては、数値計算のプログラムを作成するための資料を集めることはそれほど大変ではないかもしれないが、必要な資料全てを探し当てるのは多くの労力を必要とするであろう。また、地震動には興味があるが、それを専門としているわけではなく、専門の論文誌がすぐに手に入らないような人にとっては、計算手法の全貌を知ることが困難になってしまう。これまでにも、地震動の数値計算手法については数多くのとりまとめがなされてはいるが、その多くは地震学等の専門の研究者向けであり、どういう論文に何が書いてあるのかというこれまでの研究のレビューで、必ずしもこれから勉強を始める人にとって読みやすいものとはなっていない。本書では、これから自分でプログラムを書いて実際に地震動を計算してみようと考えている人を対象にして、そのために必要なことがらについてできるだけ初等的な表記を用いて説明することを心がけたつもりである。ベクトル解析やテンソル解析で用いられる表記法を使えば、もっと簡単に書くことができる式もたくさんあり、そうした表記法を用いた方が物理的にも意味がはっきりしてわかりやすいと思われる読者もおられようが、そういう方々は、おそらく既に本書の内容の大部分を理解している人たちであろう。本書では、基本的には、大学の理科系の学部の3年生までの講義で学ぶはずになっている微積分学等の知識のみを仮定して記述している。本書は、弾性波動論を用いて地震動の物理について記述しているものではない。あくまでも、地震動を弾性波動論を用いてモデル化した場合に生じる方程式について、数学的に問題解の道筋を示すと同時に、結果が公式集のような形で使えるように意識して書かれたものである。他の教科書に詳しく書いてあるような項目については、できるだけ簡潔にまとめ、あまり他書にないような部分については詳しく記述した。これは、本書が、これまでに著者が書き留めてきたノートをもとに作成されており、このノートは他の専門書等があまり丁寧に記述していない部分を補うために作ったものであるからである。当初、複雑な媒質中での地震動計算法として、有限差分法、有限要素法及び境界要素法について記述する予定であったが、紙数の都合等により、今回は見送ることとなった。これらについては、本書の続編として準備中である。


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